36協定を巡る行政の対応     (02/8.1)

 Web伝送便宛にいただきました、桜沢さんの闘い(年繁時期における超勤強制に対する拒否−免職−裁判闘争勝利−復職)に関するお問い合わせをきっかけに、市民運動として36協定を巡る行政の対応の実態を調べておられることが解りました。
 私たちの運動の参考に是非との要請を快諾していただき、投稿という形で原稿を寄せていただきました。
 伝送便本体には紙面の都合上一部割愛させていただきましたが、Web上では資料を含めて全文掲載させていただきました。
 運動の報告及び資料のご提供、改めましてお礼申し上げます。  (多田野 Dave)

     情報公開をしてみよう

 36協定の巻

 労働基準法第32条で、一週間について四十時間、一日について八時間を超えて、労働させてはならない、と定められており、これに違反すると、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金となります。とはいえ、実際になったという話は聞いたことがないのですが。
 毎日残業があるのだが・・・・そうです、同法第36条では、書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合は、労働時間を延長することができるのです。
 この協定を一般に36協定と呼んでいますが、民間ではこの届け出をしないまま残業が行われている場合がかなりあるのです。労働基準監督署の監督官も忙しくて、罰金をつい取り忘れているのかもしれません。現場で出される、自動車運転の交通反則切符制度と異なり、監督官から司法警察官に変身して刑事裁判をする事務手続きをする必要があるから、つい面倒になってしまうのでしょう。とりあえず監督官に代って、お役所に届け出た文書を見てどうなっているのか調査してあげましょう。

 お役所に出された文書を見せてもらうには、最近できた、情報公開法と呼ばれる法律で行えます。正式には行政機関の保有する情報の公開に関する法律と言います。
 今回は、この情報公開法を使って、36協定が見られるかを試してみます。読者のみなさんは、お役所に36協定の情報公開を請求すると公開されると思いますか、それとも公開されないと思いますか。
 同じ法律なのに、どこに公開を請求するか、また、どの分を請求するかにより結果が違ってくるので、単純にする、しないと答えると、どちらの回答も正しいのです。

 事例1.36協定−都内民間会社の例−不開示

 中央区にある民間会社の、1999年度に届け出された36協定の公開を請求してみました。
 36協定のお役所での文書保存期間は、3年間です。ですから、先の文書は2002年度まで保存されています。中央区なので東京・中央労働基準監督署に出されているはずですが、情報公開の請求は各監督署ではなく東京労働局に行います。一件につき300円の手数料が取られます。
 36協定は行政官庁に届け出るとありますので、厚生労働省が近いのであれば、無理して中央労働基準監督署まで届け出に行かなくても、厚生労働省の労働基準局監督課にあいさつがてら届け出ても、あるいは、社長がOKといえば飛行機で網走の刑務所に届け出に行ってもよいでしょう。こういうおかしな人が多かったためか、あとから制定された労働安全衛生法では、行政官庁という不特定な名称は使用されず、より具体的なお役所名が明記されています。
 1箇月後、決定通知書(資料1)が送られてきました。
 不存在のため不開示。あれれ、新聞には確か社員が「毎日残業をしています。」と言ったことが報道されていたんですが。36協定の届け出がされていないまま残業が行われていたのです。一日の罰金が三十万円として一年で、10950万円、年間200日残業があったとすると、6000万円です。サラリーマンの税金はしっかり取られているのですが、国家予算は赤字だそうですから、たまには罰金もとって下さい。本省に届け出してあるのでは、という場合でも通常、文書は所轄署に移送されます。

 事例2.36協定−府内民間会社の例−不開示

 大阪府内の民間会社の、2000年度届け出分の36協定の公開請求をしてみました。
 1箇月後、決定通知書(資料2)が送られてきました。
 当該法人の正当な利益を害するおそれがあるから等として不開示。あれれ、この会社は36協定なんか締結していないとのことでしたから届け出はされていないはずなんですが。教えてあげなくては。早速、文書がないのだから不存在で不開示とすべきである、と厚生労働大臣宛の審査請求書を書いて大阪労働局宛て送りました。審査請求の場合は、本省の人が読むための分もいるため、2部提出する必要があります。
 しばらくすると本省のお役人から、職権で訂正させますとの連絡がありました。ほらおこられた。決定通知書は、忙しいからといってもきちんと文書の届け出がされているか調べてから作成しなくてはいけません。局長も労働基準監督官ですが、職員の監督はしなくてよいのでしょうか。決定通知書も起案され決済されているのですが、みんなで判を押せば怖くないなんて。
 先の決定通知書が取り消され、保有していないため不開示、と新たな決定通知書(資料3)が送られてきました。
 数箇月後、厚生労働大臣と記名し捺印された1頁の裁決書(資料4)が送られてきました。
 すでに、取り消して、文書を保有していないため不開示と新たにしてあるのだから、審査請求を却下すると。本省の人も余計な仕事が増えて大変だ。
 優しいからつい審査請求書には、文書がないから不存在で不開示とすべき、と書いてしまったのですが、別に解答を先に書いて教えてあげなくても良いのです。当該法人の正当な利益を害することはないので開示すべきである、と審査請求書にはそのまま決定通知書の内容を全て裏返して否定した内容だけを書いておくだけでも。この会社も毎日残業があるそうです。監督署も36協定が届け出されているか、いないかもわからないから、司法処分のしようがないのです。一年間200日の残業があるとして罰金となる、6000万円の国家財政がまた損失しました。でも一日に付き一件と計算しているから、一人に付き一件と計算するとこの金額に残業をしている人の社員数を掛けることになるから、あっと言う間に日本は黒字国家です。この前、新米の警察官に交通反則切符をきられたが、彼らにはノルマがあるため必死になって反則切符にサインをして下さい、と頭をさげられました。

 事例3.36協定−都内民間会社の例−不開示

 先と同じ中央区にある民間会社の、2000年度に届け出された36協定の公開を請求してみました。
 この年は届け出がしてあったのですが、決定通知書(資料5)には、当該法人等の正当な利益を害するおそがあるから等として不開示。法人の利益ではなく、本当は使用者の不当な利益、労働者の正当な不利益を害するおそれではないのか、なんて思ったのですが、とりあえずどの情報が当該法人等の正当な利益を害するか不明である、と書いて審査請求書を出しました。
 やがて、理由説明書(資料6)が送られてきました。
 決定通知者には不開示とした理由という欄がありますが、ここには非常に簡単な説明が加えられているだけです。理由説明書には不開示とした正当性について少し詳しく書かれています。それに対して、意見書を提出します。一例として、36協定を届け出た側の国営企業の関東郵政局長は、36協定の公開請求に対して公開しており、正当な利益を害するから不開示とする、なんて書いてないから、利益を害することはないと(事例4.参照)。
 やがて、情報公開審査会で審査が行われ、本省の労働基準局賃金時間課長等が出頭してなにやら聴取が行われました。通常、審査請求人は呼ばれません。
 審査後、不開示とした決定は妥当である、と答申書(資料7)が送られてきました。
 国営企業の公開例を、民間企業に当てはめてもだめ、ならば、民間企業で36協定を公にしている企業はないでしょうか。なければみんなで会社を作って、36協定を締結しインターネット上に公開しましょう。

 事例4.36協定−船橋東郵便局の例−開示

 民間企業の場合は届け出を受けた側にしか情報公開法での請求はできませんが、国営企業の場合は、届け出をする側と届け出を受けた側両方に公開を請求する事ができます。
 平成12年4月に「超過勤務命令は違法」郵便局員復職へと題した新聞報道(資料8)がありました。
 それではこの船橋東郵便局の36協定はどうなっているのかと、関東郵政局長に公開を請求しました。36協定の有効期間は最長一年間である、との事で民間の場合、4月から有効となる36協定は、通常3月に締結が行われ、3月末に届け出する場合と、4月はじめに届け出が行われる場合が多いようです。このあたり請求する年度を間違えると、違う年度の分となってしまいます。もっとも内容は事例3のように不開示となりますが、事例1,3のように36協定の届け出がある、ない位はわかります。
 いつ出ているのか判りませんので、今回は直近の36協定書として現在有効となるであろうものを請求してみました。
 決定通知書(資料9)には開示とあります。
 郵送料を添えて文書の写しを請求します。複写代金は一枚20円ですが、手数料300円を払ってあるため、15枚までは複写代金は取られません。なお、郵政事業庁関連の手数料は収入印紙により支払うのではなく、情報公開用の国庫金納付書を使用して郵便局等にて納付します。
 36協定(資料10)を見ると、あれれ、締結の期間は二箇月間です。民間では一年間です。
 以前、勤務先で社員の出入りが多く、職場の人員や組織が頻繁に変わるため、監督官に先月届け出ている36協定と組織体制も人員も全く合わなくなっているので、再締結する必要があるのではないのか、と聞いたことがあるのです。もちろん、「問題はありません。一年間有効です。」との答えでしたが、「問題あります。人数が増えた場合は再締結が必要です。」なんて言えないですよね。毎月、36協定を届け出させなければならなくなり、監督官もますます、忙しくなってしまうから。郵政事業庁も、暑中見舞いや年賀状の時期の職員数に合わせて、最大の職員数を予測して36協定を締結していると思ったら、なんときちんと二箇月おきに締結しているではないですか。監督官はこの事実、知っていて行政指導してくれたのかなあ。

 事例5.36協定−横浜中央郵便局の例−開示

 なんだ公開されるのか、300円払うのだから直近のものとして一枚しか貰わないのは損だ。ということで同じく関東郵政局長に2001年度の10箇月分を請求したところ、通知書(資料11)には5枚が公開とされ、写しを請求するとそれらが送られてきました。
 職員総数が平成13年5月10日付けの948名(全逓信労働組合401名、全郵政労働組合74名)から、平成14年1月18日付けの880名(全逓信労働組合395名、全郵政労働組合63名)へと徐々に減員していましたが、特定の季節により職員数が増員されているという予測はこの協定書で見る限りありませんでした。

 事例6.36協定−船橋東郵便局の例−不開示から開示へ

 なんだ出す方は公開されるのか、ならば受け取る側も公開するだろうと、千葉労働局に船橋東郵便局が船橋労働基準監督署へ届け出した36協定の公開を請求しました。
 また、不開示です(資料12)。
 審査請求です。相変わらず、届け出をした文書は関東郵政局長から公開されているのですが、と解答をつけて書いて出しました。
 やがて、厚生労働大臣と記名し捺印された2頁の裁決書(資料13)が送られてきました。
 不開示決定処分はこれを取り消すと。そして新たに、開示とした決定通知書(資料14)が送られてきました。
 今回は情報公開審査会に行く前に公開となりました。しかし、裁決書には、不開示としたことを法の解釈を誤ったものではないと書かれています。そうなると、関東郵政局長は、法の解釈を誤っているのでしょうか。官と官とはいつ争うのでしょうか。
 公開された4枚の36協定を見ますと、職員総数が平成13年5月15日付けの494名(全逓労働組合295名(組合員200名、委任状等95名)、全日本郵政労働組合29名(組合員18名、委任状等11名))から、平成13年11月14日付けの532名(全逓労働組合277名(組合員203名、委任状等74名)、全日本郵政労働組合23名(組合員16名、委任状等7名))へと徐々に増員していましたが、特定の季節により職員数が増員されているという予測はこの協定書でもありませんでした。

 事例7.36協定−横浜中央郵便局の例−不開示から開示へ

 神奈川労働局においても、同様に不開示となりましたが、審査請求後、開示となり4枚の36協定の写しが届きました。
 あれれ、そのうちの1枚、平成13年9月17日付けの36協定書(資料15)を見ますと、職員総数が924名(全逓信労働組合369名、全郵政労働組合60名)となっています。横浜北労働基準監督署の職員が確認のうえ受理しているのでしょうが、この文書を見ただけでは過半数により協定が締結されていることはわかりません。アカウンタビリティーつまり、監督署の職員は過半数を超えていることをわかって収受している、という行政側の説明資料はなんらありませんでした。

 事例8.36協定−東京中央郵便局の例−現在不明

 さて、千葉労働局(事例6)と神奈川労働局(事例7)では、それぞれ船橋東郵便局と横浜中央郵便局の36協定を公開しました。そこで、その間にある東京労働局に、東京中央郵便局から中央労働基準監督署に届け出がされている36協定の公開を請求しました。
 この件は、まだ決定通知者が届いていません。ところで、現在の東京労働局長坂本由紀子氏の前職は厚生労働省の安全衛生部部長でした。本省にもどると局長のポストが用意されているのでしょうか。また、千葉と神奈川の件は情報が伝わっているのでしょうか。
 読者の皆さんは、不開示になるか開示になるかどちらになると思いますか。東京労働局長になったつもりで考えてみて下さい。

 今回は、36協定でしたが、就業規則、申告、行政指導、行政処分等いろいろと請求はしています。皆さんも是非、情報公開をしてみて下さい。

 おことわり。公務員の方が公開の請求をした場合、職場でどのような不利益を受けるかわかりません。また、発生した不利益については、当団体は責任が負えません。その点をご了承の上で、請求は行って下さい。
 また、情報公開を初めて受ける役所の場合、担当者によってはなんでこんな文書を請求するのだ、といった感じの対応をされる場合があります(担当者が年配の場合に多い)。それでも2,3回請求すると、事務的に処理されるようになります。
 ここで公開した事例は、労働基準行政についての調査を目的とし、任意に選択したもので、特定の使用者・労働者・企業・団体を対象として行っているものではありません。

 市民団体 サー残をなくす会 代表 佐藤 栄司
 連絡先メイルアドレス : h2rocket2002@ybb.ne.jp