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金融危機とゆうちょ銀行     (01.13)
カジノ資本主義の破綻から、社会的金融システムの再確立の為の議論を

10月27日に行われた西川善文日本郵政社長の記者会見において、西川社長は、
  「日本郵政グループの経営という点から、(サブプライム・リーマンショックが)どういう影響があるのか考えてみますと、直接的にはそれほど大きな影響が及んでいる状況ではないと申し上げてよろしいかと思います。もちろん、現在、この円高、そして株価の下落等により、金融二社において、外債や株式に評価損が発生しているという状況でありますが、ゆうちょ銀行について申しますと、資産全体に占める外債、株式の割合は、現在もほとんど大きく変わってないと思いますが、半年ほど前の2008年3月時点で0.3%程度ということで、影響は軽微です。また、一方で、安定的に資金収益が確保できていますので、経営の健全性には、まったく問題がない状況です」
  と胸を張った。

確かに9月末決算に見るゆうちょ銀行の運用状況は、国債と地方債が約80%を占め、財投への預託金を含めれば90%近くが国債等への運用となるが、公社時代と比較して運用状況はさほど変わっていないことがわかる。
  しかし、日本郵政の思惑は、金融二社の300兆円もの巨大な資金を国債一辺倒の運用方法から、「運用の多様化」や株式の上場をとおして市場価値の増大をめざすことに置かれていることは間違いない。そして、「運用の多様化」のモデルとして、日本有数の機関投資家「ノーチューバンク」として世界に知られる農林中央金庫を目指し、農林中金の幹部をゆうちょ銀行のCEOに充てようとも画策したともいわれている。

農林中金は、約60兆円の資産のうち、融資は10兆円ほどで、約60%強を株や債権で運用し、そのうち25兆円が外国の有価証券となっているのである。
  小泉路線が進行するなかで、地方は疲弊し、まともな融資先が減っていったが、JAバンクを通じてお金は集まってくるため、融資以外でその利回りをとらなくてはならないことから、外国の有価証券など大量の金融商品を保有したのである。
  一時期はアメリカの景気に助けられ運用益だけで年間9千億円以上のもうけを確保していたが、今はとんでもない事態となり、まさに、短期間の間に天国と地獄を見たようである。

農林中金の本年9月の中間決算では、およそ1兆5千億円の有価証券の含み損を抱えているとしたが、二つのアメリカ住宅公社関連の債権を5.5兆円も保有しているなど、専門家の間では時間の経過とともに、財務内容は相当痛んでいるといわれ危機に瀕している。

西川社長は、ゆうちょ銀行が目指そうとしている農林中金の運用実態を見て、肝を冷やしたに違いない。だからあえて、ゆうちょ銀行の経営の健全性について強調したのである。
  ゆうちょ資金は言うまでもなく、国民の財産であるがゆえに、「より高い運用利回り」というもうけの衝動に駆られ、それを投機ゲームの対象とすることは絶対に許されないし、それに対する監視の目を一層強め、情報開示も強く求めなくてはならない。

 頓挫する西川流経営路線

西川社長やゆうちょ銀行が考えているであろう収益を上げる道は、1.リテールの強化(個人融資など新規サービス) 2.海外への証券投資(運用の多様化) 3.民間企業との提携(企業への貸し出し等)などである。これは実施計画においても明らかとなっている。しかし、少なくともこの一年間を見る限りにおいて、すべてにおいて施策は頓挫した。

「日本版金融ビッグバン」以降の「貯蓄から投資へ」というバカげた国策の中で、2005年から販売開始された投資信託は、ここにきて、当然にも販売に急ブレーキがかかっている。
  ゆうちょ銀行では、国内外の株式・債権・リート(不動産)を投資対象とする16本のファンドを取り扱っているが、2008年の一年間の基準価額の推移で見れば、30%~65%ほど時価を下げていることから、購入時期にもよるが、ものすごい元本割れとなっているのである。
  「プロが運用するから大丈夫」だとか、「長い目で見れば大丈夫」などという甘言に乗せられ、「郵便局なら大丈夫なのでは」と、ついつい購入してしまった人のいいお年寄りが大勢いるのではないか。

そもそも手数料収入の確保のためにリスク商品に手を染める経営方針自体を見直さなくてはならないのであるが、サブプライムローン問題によって市場に激震が走る最中の本年(08年)5月、新たなリスク商品である変額年金保険の販売を開始した。公的年金制度に対する国民の不安を逆手に、さらなる手数料収入のためということであるが、このようなリスク商品の販売強化方針が、今まで郵便局が築いてきた信頼を根こそぎ解体するものとなりかねないのであり、市民・利用者からはすでにそのような声があがっているのである。

また、ゆうちょ銀行の新規サービスの柱と位置づけていた、クレジットカード(JPBANKカード)事業への進出や住宅ローンについても、思うような結果を得られないでいる。
  クレジットカードについては、初年度目標100万枚に対して、本年9月末で、8万5千枚という実績である。市場が飽和状態であるのに加え、とくにメリットも感じられないクレジットカードの参入であるからである。ゆうちょ口座への給与振替を行っている場合は、年会費免除などの「部内向け特典」を設けてもこのありさまである。
  住宅ローンについては、スルガ銀行の住宅ローン貸し付けの媒介を行っているにすぎず、それでも目標2千億円に対して、170億円にとどまっているのである。

 「市場」から「社会」へ

あの竹中平蔵は、今年の4月、「民営化された日本郵政はアメリカに出資せよと是非申し上げたい。アメリカに貢献できるし、日本郵政から見てもアメリカ金融機関に出資することでいろいろなノウハウを蓄積し、新たなビジネスの基礎が築ける」という主旨の発言を行っている。
  もし、竹中の意見を西川社長が受け入れ、4月にゆうちょ銀行がアメリカ金融機関に出資していたならどうなっていたのだろう。中間決算を想像するまでもなく、国民の財産は泡と消え去り、ゆうちょ銀行は莫大な不良債権を抱え込み、それを政府が買い取ることで再び国有化ということか。バカバカしくて話にならない竹中の妄言であるし、この「思想」が郵政民営化に導いたのであるから、なりを直すしかないだろう。

100年に一度といわれるサブプライムローン問題に端を発した世界金融恐慌と日本経済への影響を見るとき、アメリカのまねをして「金融立国」などと叫び、新自由主義・規制緩和路線を突っ走っていた流れの息の根を止めるための闘いは極めて重要である。
  国民の財産を投機の対象にするアメリカ路線を支持するのか、それとも金融のユニバーサルサービスを確保し、公共サービスを守るための抜本的な郵政民営化見直しを政府に迫るのか、大いに議論すべき時に来ている。(鈴木 英夫)