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郵便営業が事業をつぶす    (07.01)
ノルマが壊す職場と心

「正社員を目指している期間雇用社員は、営業し目標を達成しよう」
  朝のミーティングで課長が声高に言う。おりからの「10万人正社員化」を格好の餌に、営業ノルマを達成させようという姑息な発言だ。
  これを聞いた期間雇用社員は、「かもめーる500枚」という目標を達成しなければ正社員への道は開けないと浮足立つ。
  「営業をやらない期間雇用社員は10月以降の契約を見直すかもしれない、正社員は人事評価で評価する」と公言する課長もいる。ノルマ達成者に対して商品券が配られる一方、「成績不振者」は管理者との「対話」という脅しが突きつけられる。

社屋内の壁という壁、エレベータ、トイレにも「目標必達」の撤や、「奪還営業・一体営業」などのノボリが掲げられ、支店によっては「販売ゼロ者」として個人の氏名を貼り出す人権侵害まがいの行為も平然と行われている。
  当然職場は殺伐とした空気に包まれ、社員、期間社員間わず競争が激しくなる。こんな郵便局に誰がした・・・。

法律にも事業計画にもない「営業」

郵便局の集配課が集配営業課と呼ばれるようになったのはいつごろからか。
  それまでの「利用者」という呼称を「お客様」と変えた頃か。まさに、郵便サービスを享受する「利用者」が、今度は郵便商品を購入する「お客」へと変身した瞬間である。
  民営化後、一時「営業」の文字が取れたものの、すぐ復活し元の「集配営業課」となってしまった。
  「営業」の文字が消えた時、管理者は「集配の仕事の中には当然営業が含まれるからあえて入れないことにした」とその理由を述べていたが、復活した理由についてはついぞ聞いたことがない。

民営化で営利を目的とする民間企業になったのだから営業して稼ぐのは当たり前と平然と管理者たちは説くが、はたしてその根拠はどこにあるのだろうか。
  郵便事業株式会社法では、会社の目的について「郵便事業株式会社は、郵便の業務及び印紙の売りさばきの業務を営むことを目的とする株式会社とする」(第一条)と述べ、第三条では、業務の範囲として「郵便法(昭和二十二年法律第百六十五号)の規定により行う郵便の業務、二.国の委託を受けて行う印紙の売りさばき、三.前二号に掲げる業務に附帯する業務」としている。

そこで郵便法で規定している「郵便の業務」を見てみると、「郵便の役務をなるべく安い料金で、あまねく、公平に提供することによって、公共の福祉を増進することを目的とする」(第一条)となる。
  そこには、「営利を目的として業務を営むこと」(広辞苑)という「営業」の概念はみじんもみられない。
  ちなみに、今年度の郵便事業会社の事業計画でも、業務運営の基本方針として、「効率的な事業運営」「経営資源の積極的活用」「お客様の視点に立ったサービスの提供」「経営の信頼性・透明性の確保」「社会・地域への貢献」が掲げられているが、「収益の確保」や「奪還営業」などの文言は一切ない。

法律にもなければ、会社の事業計画にもない「営業」が、なぜか支社、支店の現場段階ではわがもの顔で登場する。
  会社は、前項の「付帯する業務」に「営業」は含まれると強弁するかもしれないが、あくまでも付帯する業務であり、本来業務では決してない。
  「業務より営業」が実態としてある今の郵便事業の現状はまさに本末転倒というしかない。

採算度外視の営業戦略

郵便事業に「営業」が登場した背景には、労働者一人ひとりに採算性、企業意識を持たせ、労働者意識を払拭するという当局の狙いがあった。
  さらに労働者同士を営業成績で競争させ分断し、さらには人事評価で差別化するという格好の材料として「営業」が使われたのである。
  「このままでは会社がつぶれることもある」と管理者は危機意識を煽り、労働者を営業戦士へと変身させ、一人ひとりに意識改革を求めたのだ。

しかし、大義名分が収益拡大という営業ではあるが、実態は営業行為が減益につながっているというまぎれもない事実がある。
  例えば、郵便営業の雄、「年賀はがき」。一昨年は広告費だけで60億円余を注ぎ込んだというが、その減少傾向に歯止めはかからない。
  年々、販売個人目標を上げて半強制的に自爆を強要しても、年賀状の売れ残りは年々増える一方だ。
  そもそも郵便局の独占商品である年賀状にこれだけのノルマをかけて販売促進を行う必要があるのか。ましては、元日一括配達の年賀状と違い、人件費コスト削減が望めない「かもめーる」にこれだけの広告宣伝費と営業コスト、それに「くじ代」をかける意味があるのか。常識的に理解できないところである(今年のかもめーるチラシ、アイキャッチャー印刷では提携したアニメ映画の配給会社名を間違えたり、絵柄を反転させたりの重大ミスプリが続出)。
  人事評価の材料として通年的に郵便商品を提供する必要があるために、夏のかもめーる営業に力を入れているとしか思えない採算度外視の営業戦略である。

違法営業を改めず

その営業手法といったら、法に抵触するどころか明確な違法営業なのだ。
  郵便窓口で行う店舗営業はともかく、外務員(内務も)が戸別訪問して行っている郵便営業は明らかな訪問販売である。
  周知の通り昨年末に改正施行された特定商取引法により郵便商品もその規制対象となり、消費者保護の立場からその訪問販売方法に関して細かい規定や禁止条項がもりこまれた。
  主な改正内容は、「氏名等の明示」「拒否者に対する勧誘の禁止」「書面の交付」「不当行為の禁止」「過量販売契約の申込みの撤回」等である。

郵便事業会社本社は法律施行数日前に各支社に「特定商取引に関する法律改正に伴う営業取組方法」と記された文書を送付し、社員への周知を行うよう指示を出した。
  しかしその指示文書の中身は、「営業する際には、郵便商品(申込・購入)確認書を携行し、お客様へ、支店名、社員名を伝え利用勧奨を行います」と述べ、注意点として、訪問販売・電話勧誘販売時には金額に関係なく、郵便商品(申込・購入)確認書を交付する(3,000円以上がクーリング・オフの対象となる)としたのみである。
  今回の改正法の目玉の一つである「拒否者への再訪問禁止」「過量販売の禁止」等は一切触れずじまいであった。

日ごろ口酸っぱく唱える「法律遵守」から大きく逸脱した「新営業取組方法」ではあるが、それさえも支社ごと、支店ごとでその対応がばらばらだった。
  支社判断で各支店には送付せずもみ消しをはかった支社がある一方、各支店に対し全社員にミーティングで内容を徹底するよう求めた支社。しかし、支社からの指示があったにもかかわらず、文書配布のみで済ませた支店、文書も配布せず周知も行わない支店もあり、対応は支店長裁量というのが実態のようである。

改正法施行から半年経過した今季かもめーる販売に際しても、その取組方法に関して注意等は一切なく旧来通りの「声かけ営業」「携行販売」「お預かり営業」という訪問販売を繰り返しているのが現実だ。
  コンプライアンス違反を堂々と全国展開しているのである。

郵便の原点に立ち返れ

「奪還営業」と称して、トップセールスや法人営業に力を入れる郵便会社だが、現実は2003年度書状送達市場全体に占める他社メール便シェアが5%だったのに比し、2008年度には約2倍の10%に上昇しているのが現実だ。
宅配業者シェア  奪還どころか足元から浸食されているのである。
  その間、郵政側のTNTとの連携破綻、日本通運ペリカン便との合弁破綻を尻目に宅配便市場では、ヤマト運輸と佐川急便の二強寡占化が進行し、03年度64.5%から08年度には72.1%とシェアを上げているのだ。
  「アジア市場でのナンバーワンプレイヤーを目指す」どころか国内二強に大きく水をあけられた新ゆうパックはもはや青息吐息のスタートとなる。

この間の政局に右往左往した経営トップの下でかつての郵政官僚たちは自己保身に走り、事業のビジョンについて真剣な検討作業を放棄し続けてきた。その結果が目先の業務収入増に走る歪んだ郵便営業施策を助長してきたといえる。
  本社、支社、支店の幹部たちは自らの栄転のために裏金をフル活用して現場社員を営業へとかりたてる。その報償ときたら海外旅行からカップ麺、バナナまで千差万別である。

雇用を前に数日分の自給を自爆に振り向けざるをえない期間雇用社員、何万枚もの年賀を購入し金券ショップに持ち込む正社員、自社商品購入が常態化した異常な大企業と言わざるを得ない。
  事業会社と局会社の縄張り争いに始まり、支社ごと、支店ごと、課ごと、班ごとの競争が人間関係を歪めていく。
このような違法かつ歪んだ郵便営業はただちに止めるべきである。
  郵便法で掲げる「なるべく安い料金で、あまねく、公平に提供することによって、公共の福祉を増進することを目的とする」郵便事業の原点に立ち返り、安心、確実、丁寧な郵便サービスを徹底することから今始めなければならない。

(編集部)