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Headline 2011

郵政事業は誰のためのものか    (01.01)
ぶつかっている困難の壁は倒すまでは倒れない

郵政改革法案は次期通常国会へと持ち越された。4月の採決を目指すというが、管内閣の行方自体がそもそも不透明だ。それによって郵政事業全体の経営方針も右往左往せざるを得ない。

それを示す一つのエピソードがある。
  朝日や日経などでかなり派手に報道された電動郵便バイクの導入。報道によると仏ラ・ポスト社と共同でイタリア製の電動バイクを大量調達するとあった。
  日本郵便にしてはおしゃれな話だなと思っていたら、どうもこれは今頓挫しているらしい。
  この電動バイク、郵政改革法案の採決を見越し、事業会社と局会社が統合されることを前提に計画していたらしい。宅配ピザなどで使っている三輪の電動バイクだったらしく、駐車場所の確保について現在局会社との調整がつかないとのこと。
  まったくおしゃれな話ではなくなってしまった。もちろん問題は駐車場確保だけにあるのではないと推測するのだが。

そんな話では済まされないのが、郵便事業会社の巨大な営業損失額。今年度中間決算によると会社全体の営総務省資料業損失額は928億円となっている。資本金1,000億円割れ目前といった額だ。
  これに対して総務省は11月15日付けで、1.中間決算と事業計画の乖離に係る要因分析、2.収支改善施策、3.今後の経営見通し、といった3点について1月28日までに報告を出すよう命令を出している。
  事業経営の困難さは郵便事業会社に止まらない。経営形態がめまぐるしく変わったこの10年の間に、郵貯からは約90兆円が流失し、簡保の契約数も8,500万件から4,500万件へとほぼ半減している。
  郵政グループ全体で経営基盤が揺らいでいる。

小包統合失敗のツケは現場に

11月19日、それ以前に出されていた総務省からの行政命令、7月の小包統合時の大失策に対しての再発防止に関する報告が事業会社から出された。鍋倉社長が「現場の不慣れと」と第一声を発した例の事件だ。
  それによると7月の混乱の原因は、「全体として準備が不十分であった」と反省し、背景として「本社・現場間の風通しの悪さ、支店・支社管理機能の低下、本社の肥大化による本社内での縦割り等による弊害等がありました」と珍しく殊勝な言葉を並べている。
  何を今さら、とはいうまい。現場に働く者にとっては、だからその根本原因はどこにあるのかと問うにとどめよう。

営業の締め付け問題は統合に絡む250億ともいわれる赤字のツケをまた現場に押しつけようともくろんでいるのではないかということだ。
  総務省に出した報告とは裏腹に、現場では年賀営業の異常な締め付けが続いた。それこそ「肥大化した本社の縦割り指導の弊害」そのものではないか。
  現場管理者は7月の損失を取り戻せと平然と言い放つ。経営の失策は現場の社員がかぶれと、それが本社の指導なのだと、現場はそう受け取らざるを得ないだろう。

採算を度外視した設備投資

年末小包対策については「7月に失ったお客様の信頼を取り戻す」ためにといった檄が各支店に張り出された。
  会社は処理能力を二倍に増やすとして集配拠点支店の増配置、トラック便も平常の1.6倍に、区分機の更改に携帯端末の増配備と、採算を度外視した大規模な設備投資を行った。
  さらに2ヶ月間の短期契約社員を前年同期より9,000人多い18万3,000人を募集するとした。契約時には長期雇用を念頭に置いていると口約束をしているが、クリスマス時に切れる契約がきちんと更新される保障はなにもなかった。

そして、現場は閑古鳥が鳴いた。AKB48というアイドルグループに関する出物のときだけは大変だったというが。日米合同演習の煽りをくらって沖縄地方に遅配の影響が出たとの報道があったぐらいで、他はおおむね順調。というか実感として取り扱い個数が激減している。一方ヤマト運輸の方は例年の1.5倍の取扱量だという。
  設備投資の額と相まって、発表される赤字の額がどれくらいになるのか。総務省から1月28日までに出すよう命令されている事業改善報告がどういったものになるのか、各社の報道には要注目だ。

 荒廃する職場環境

経営の失策を現場に押しつける体質。危機感を煽るだけ煽って現場を締め付ける。
  現場の大半を占める非正規社員には雇用とスキル評価を盾に、正社員には降格やら配転を脅しに使い、管理者にも次期配属先のにんじんをぶら下げる。
  現場では上から下まで数値評価によってズタズタに引き裂かれている。社員どおしの足の引っ張り合いで監獄のような職場環境となってしまっている。

12月に入って社員の飛び降り自殺事件が報告された。さいたま新都心支店。ここでは以前にも自殺者が出ている。今回、その以前飛び降りた所と同じ窓から身を投げたという。パワハラが原因ではないかというだけで詳細は分からない。
  東京ではうつ病を患う期間雇用社員に対して雇い止めが起きた。
  先月報告された郵政全国職場交流会でもセクハラ・パワハラに関する事案が全国からこれでもかというほど報告されている。
  社長がのんきにその失策のツケを現場に回している間にも、会社の体質を呪ううめき声が全国の職場に蔓延している。
  経営は史上最大の赤字を計上し、現場は荒廃の坂道を転げ落ちている。
  ネットにはいくつもの同様な書き込みが絶えない。「こんな会社いつか潰れるだろう」と。

官僚主義の破綻は誰が償うのか

郵政事業はすでに破綻していると見た方がいいだろう。経営的にも、現場が牢獄化しているという意味でも、この会社が社会的な事業体として存続を許される許容限度をとうに超えているのだと。
  しかし事業は依然として官僚どもが牛耳っている。
  この官僚主義というものは倒すまでは倒れないのだ。
  そこに働く者がたとえ奴隷のような扱いをされようと、資本がその機能を必要としている限り、官僚による事業の支配は揺らがない。
  資本の敵は官僚ではない。国民に奉仕する官僚は敵だが、資本に奉仕する官僚は味方なのだ。たとえ民営化されようが職場を支配・管理しようとする官僚機構はちっとも変わることはない。

経営赤字はいずれ税金投入といった形で埋め合わされるだろう。
  金融カジノ資本主義の破綻の際、それを引き起こした張本人である銀行やら投資会社やら保険会社までが税金によって救われたように。結局は私たちの税金によって官僚や資本の失敗は償われ、そのうえ法人税減税というご祝儀まで用意されるのだ。この国の企業の七割はまともに法人税など納めてはいないというのに、
  確かに官僚トップの首のすげ替えぐらいはあるだろう。また民間から新たな社長が召還されるかも知れない。公社時代の生田正治のように。もちろん私たちは知っている。彼が在任中になしたことを。JPS(トヨタ方式)が職場の荒廃にどれだけ貢献してきたかを。
  誰が社長になっても同じだ。奴隷工場は存続しつづけるのだ。

倒すまでは倒れない

ただ、私たちの職場の荒廃は私たちの職場だけの現象ではない。
  貧困と格差、非正規社員の増大と成果主義と過密労働にあえぐ正社員。これらは広くこの国に蔓延し、劣化していく社会として認知されて久しい。それらは市場の効率を優先することで社会の効率性も高まるのだという一種の「信仰」がもたらした劣化現象である。
  その市場至上主義が失敗したにもかかわらず、やはりそのツケは労働者にしわ寄せさせられている。
  かつてナショナル・フラッグとまでいわれた日航JALは、この大晦日に二〇〇人もの社員を整理解雇すると発表した。
  最近厚労省は、09年の1年間だけで、自殺者や、うつ病などによる経済損失が約2.7兆円に上ると明らかにした。

みんなが問い始めている。
  一体この社会は誰のために、なんのためにあるのか。誰のための、なんのための市場なのか。
  市場から利益を得る者達のためだけの社会なのか。
  社会のために市場をコントロールするすべはないのか。
  私たちがぶつかっている困難の壁は「市場から利益を得る者達のためだけの社会」だ。そしてその壁は、みんなでよってたかって倒すまでは倒れない。繋がって、連帯すること以外に道はない。

(多田野 Dave)

*追記
  上記の原稿は伝送便1月号用に準備したものだが、31日大晦日になって東京新聞朝刊一面に次のような見出しが躍った。
  「日本郵便、債務超過の恐れ 大リストラを検討
  ネット上には上がっていないが6面にも関連記事が掲載され、例によって松原聡東洋大教授がコメントを寄せている。「非常勤職員を皆正社員にするような状態を維持したままでは安定した経営はできない」。どこかで聞いたようなコメントだ。そう、JP労組の言い分と同じである。
  今年は厳しい闘いの年になりそうだ。経営陣に加え郵政グループ最大の労働組合指導部をも向こうに回しての消耗戦になるのか。加えて政治状況に対する取り組みも重要になってくるだろう。
  同新聞3面には日航による170名の整理解雇の記事も掲載されている。
  闘いの戦線を拡げなければならない。