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特定秘密保護法案―地方公聴会で一入叫ぶ!    (01.10)
「伝送便」の記者として堂々と公聴会会場入り

12月6日という日を私は忘れない。深夜の国会正門前、押し寄せた何千もの人々と共に、稀代の悪法が成立したその屈辱の瞬間を共有した長い一日だった。
  夜11時20分過ぎ、朝から国会周辺にこだましていた「特定秘密保護法案、廃案!」の轟が止み、スピーカーから実況中継される参議院本会議の採決結果をみな固唾をのんで聴きいった。静寂の中、議長から「本案は可決されました」の声が響く。一瞬の沈黙の後、怒涛のような「採決撤回!」の雄たけびが巻き起こった。怒りの地響きが再び国会を包みこんだ。
  まわりでは高校生らしい女性や高齢者などさまざまな人々が漆黒の闇に浮かぶ国会議事堂に向けて叫び続けていた。
  悔しかった。だが、みなの表情には敗北感はみじんも見受けられない。

昼のアピールで誰かが60年安保の時のように巨万の隊列で国会を包囲しようと言っていたのをふと思い出した。あの時はもっと多くの人々が国会に押し寄せただろうが、結局安保は通ってしまい、のちに安保闘争は「壮大なゼロ」と言われたものだった。
  しかし、今回は違うと思った。連日、全国から国会に駆け付けた人々は、労組や政党が主力となった60年安保とは明らかに異なり、個々の市民が自発的に集まった群れだった。
  選挙に頼る民主主義ではなく、自立した個人の意思が結集し真の民主主義を創っていく凝縮したエネルギー。法案は通ったがこの人々の思いの蓄積は決してゼロなどにはならないだろう。
  新たな歴史の結節点に立っていることを実感した夜だった。

「フリーランスです。伝送便記者です」

その二日前、私はさいたま市で開催された秘密保護法案の地方公聴会に行った。前日強行決定されたアリバイ作りのための公聴会に抗議するため結婚式場に設定された会場に向かった。
  開始予定時間の2時間前に着くとちょうど警官が立入禁止の柵をセッティングしているところだった。とっさに「式場の予約に来たのですが」と言うとあっさり「どうぞ」と中に通してくれた。
  公聴会会場の3階に上がるとすでに受付席が設けられていた。傍聴者と書いてある席では市民らしい人が係官と何か言い合いをしている。「なぜ傍聴させないんだ」と迫る人に担当者は「各会派に昨日傍聴券50枚を配布してます。傍聴希望なら会派にご相談ください」とつれない。

これは無理だなと直感、ふと隣の席の「報道」に目が止まる。そう私は「伝送便」の記者ではないか。思いつきではあるがダメもとであたってみようと担当者に申し込んでみた。すると「記者クラブに所属してますか」と。「いいえ、ブリーランスです」と私。若い係官は対応に困った様子で席をはずし奥の上司に耳打ちする。少し間を置き「正式受付は2時20分からなのですが、一応、御名刺をテーブルに置いてお待ちください。先着10名様となっていますが」と。見ればすでにテーブル上には朝日、毎日などの新聞記者の名刺が13枚も置かれていた。やはり無理だなと思いながら「伝送便編集部」の名刺を置き待機。
  見ているとその後も続々と記者たちが受付をし名刺を置いていくではないか。受付時間ころにはもう20数枚の名刺が並んでいた。これで断られたら「フリーランスを差別するのか」と大声を出してやろう。

定刻になり係官が受付を宣言、新聞社と記者名を順番に告げる。ついに「伝送便、池田様」と呼ばれた。記者たちの「伝送便?」といういぶかしげな視線を無視し、堂々と名前を記入、「報道関係」と記された丸いバッジをもらった。
  内心「やった」とどきどきしながら、神妙に胸にバッジを付け公聴会会場に入ることができた。

密室の公聴会に抗議

公述人3人だけの公聴会が始まる。何せ前日に開催が決まったのだから無理もない。50人いるはずの傍聴席も空席が目立ち、42席ある報道席にも空席がある始末。
  開始時間になったが、委員が揃わない。座っている自民党の佐藤委員(元自衛官)が中川委員長にゼェスチァーで会場に入る時デモ隊にもみくちゃにされたもようをにやけながら話している様子。やがて入口で抗議に遭ったせいか到着が遅れた委員たちが揃い公聴会が始まった。

3人の公述人のうち二人は与党側で肩書きは元自衛官とセキュリティー研究所長という防衛省・外務省のお抱え公述人、話す内容は「法制化は遅かったくらいだ」「罰則は軽すぎる」といったもの、サイバー攻撃や間接侵略などに対処するためにもいかに法案が必要か自論を展開する。
  唯一の野党側公述人の弁護士は「昨夜10時に聞き仕事をキャンセルして駆けつけた」と拙速な公聴会開催を批判した後、法案の数々の問題点を指摘した。しかし持ち時間は各自10分、委員からの質疑応答時間も各自15分ずつでは中身が煮詰まるはずもない。これで国民の声を聞いたことになるのか、まさに形だけの公聴会だった。

開始から1時間15分、委員長が終了を宣言。
  私はとっさに「こんな公聴会は認めない!」「秘密保護法の強行採決は許さない!」と叫んでいた。
  一瞬、会場内が凍りついたよう。まさか報道席からヤジが出るとは思わなかったのだろう。それでも公聴会終了後だったので警備担当からのおとがめも無く無事会場を後にした。

会場外には数百人の市民らが抗議の声をあげ続けていた。
  同時刻、国会周辺でも多くの人々が怒りの声をあげているだろう。
  密室の公聴会を目の当たりにし、私の怒りは倍増、翌日も翌々日も国会に駆けつけた。
  しかし声をかぎりに叫びつづける人々を圧殺し自民党・公明党は法案を強行してしまった。
  だが、これは闘いの始まりである。強行採決の暴挙への怒りは鎮まるどころか、さらに廃案へ向けての新たな闘いとして継続していく。

郵政職場の「秘密」

今回の秘密法は郵政職場には直接関係ないように思う人も多いだろう。確かに直接には防衛や外交に係る仕事ではないからその恐れは低いかもしれない。
  しかし法に書かれているいくつもの「その他」という文言が拡大解釈されたならば公共サービスを担う郵政職場にもその網がかからないという保証はない。「秘密」の範囲がわからないことによって、知らず知らずのうちに「秘密の暴露」にかかわってしまうこともありうるのだ。
  「秘密」は国家安全保障にかかわる問題だけではない。企業も「秘密」を対他社、そして内部統制の武器に使う。秘密は一人歩きし労組も巻き込んで情報統制、言論封殺へと向かう。「個人情報」「企業情報」「セキュリティー」の名の下に息苦しい「物言えぬ職場」が現出するのだ。

「知る権利」「報道の自由」はなにも商業メディアだけの専売特許ではない。現場の労働者にとっても、企業秘密を知る権利や知らせる自由はあるのだ。
  秘密を独占して上意下達の組織基盤を固めようとする企業権力者に対し、労働者はそのガードを食い破り、秘密を暴露し、拡散させ、共有する権利と義務がある。
  「風通しの良い企業風土」を標榜する郵政トップに対し、隠蔽される企業情報をいかに開示させるかが職場民主主義確立の一つの鍵となるだろう。

「伝送便」はまさに郵政現場のジャーナリズムとしてその真価が問われるのである。

(池田実)