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労働契約法20条裁判の意義    (08.04)
伝送便8月号より転載

真っ向から問うているのだ。この格差と差別の「合理的」な理由は何なのだ、と。
  もちろんそんなものはありはしない。会社が説明できるわけがない。それは誰が見ても明らかに不合理であり不条理な格差と差別でしかないのだ。
  しかし会社は弁明するだろう。それはまるで憲法の解釈をご都合主義的に、時の為政者の「嗜好」に合うようにねじ曲げ空文化させるかのごとく、理由にならない理屈をでっち上げ、あっけにとられるような屁理屈を並べ立て、さもそれが当然の格差と差別であるかのような自己弁明の数々を披露してくるに違いない。
 見ものではある。

それがどれだけ社会的な物笑いの種を振りまくものであろうと、哀れにも会社は一歩も引くことはできないだろう。ひるむことはできないのだ。会社の後ろにはこの国の総資本が控えているのだから。この国のシステムそのもの、支配構造の根幹そのものを問うているのだから。
  この問いの意義は、一郵政の経営体質に抗う有期労働者の闘いという次元をはるかに超えるものだろう。この国を底辺で支えるすべての労働者の思いを一身に背負い、総資本に対して直球勝負をかけているのだから。

その構造は破壊されるべきもの

総務省による2014年1~3月期労働力調査によれば、役員を除く総雇用者数5193万人。内正社員は前年同期に比べ58万人減少し3223万人。非正規社員は100万人増加し1970万人。これは4半期ごとに集計を開始した2002年1~3月期以降最多を記録したとある。
  非正規率38%。これは郵政の労働力構成にほぼ近似する。さらに非正規社員の内年収200万円以下が、男性で56.4%、女性で81.9%(UAゼンセン資料より)を占めるという。

すでに2007年には改正パートタイム労働法が施行され、パートタイム労働者に対する差別的取扱いの禁止(8条)条項が設けられている。その上でさらに「有期契約労働者に係る不合理な労働条件の禁止」が定められた労働契約法20条が去年4月に施行された。
  それは完全なものではないにせよ、法の趣旨として同一労働同一待遇の原則に限りなく則ろうとするものである。にもかかわらず、非正規労働者は増え続け格差は拡大し続け貧困はさらに拡がっている。それが資本の回答である。

水野和夫氏による「資本主義の終焉と歴史の危機」によれば、この国の実質賃金は1997年以来20%減少、預貯金を持たない資産ゼロの世帯は1987年以来10倍増となっているという。
  氏によると、実質ゼロ金利という低金利下では、資本は投資によるリターンを確保できず利潤蓄積循環が麻痺してしまうという。にもかかわらず何とか利潤を確保しようとすれば結局は労働力商品を安く買い叩くしかない。その結果が先の数字となって表れている。
  資本主義そのものが成り立たなくなっているのにさらにそれを延命しようとすればさらなる格差と貧困をこの国に拡げていくしかない。
  さらに氏は、これはこの国に限ったことではなく、リーマンショック以降、先進資本主義諸国が揃ってほぼゼロ金利政策を取っているように、世界の資本主義がほぼ終焉を迎えつつあるのだと断言する。

氏はマルクス主義者ではない。であるが故に氏は真摯に資本主義の終焉に向けたソフトランディングを希求するのだが、すでに私たちは経験上それは無理であろうことを知っている。このシステムは倒すまでは倒れないだろう。
  個々の資本にとっては資本主義は終わりだと宣言されてもそれは即死を意味する。死に物狂いで生き残ろうとするだろう。自社商品を自社社員に強制的に買わせてでも、社員にランク付けし徹底的に賃金を引き下げてでも。社会がそれによって破壊されてしまうとしても、自分だけは必死に生き残ろうとするだろう。
  そのようなシステムは私たちの必要とする社会ではない。そのようなシステムはいずれ私たちが破壊すべきものであると考える。

倒すまでは倒れない

しかし私たちはまだ資本主義に代わる次のシステムを、その具体的な構想を手にしているわけではない。いや、もし次のシステムはこれだと、理想的な社会はこれだと言ってしまえば、それはもう一種の宗教になってしまう。額縁に飾られた目標としての理想的なステムなどありはしない。

私たちが今手にできるのは、今私たちが闘っている具体的な諸課題への解決に向けた具体的な運動だけである。その中からしか新しい未来をつかみ取ることはできない。
  ただ、その私たちのこれまでの運動の中から今私たちが手にしている過渡的なスローガンならばいくつか提示できるかも知れない。それは、公平・平等・民主主義、といったものではないだろうか。

20条裁判、すでに私たちに先行する東京メトロコマースの仲間の闘いと併せても、それは世界の構造を相手にした闘いにしては未だ心許ない陣容でしかないかも知れない。
  しかし、私たちは資本の喉元に切っ先を突きつけたことだけは確かなのだ。
  ひるむことはない。私たちの闘いだけが孤立しているわけではない。みんな闘っている。この〈帝国〉を倒すために世界各国で闘っているのだ。

(多田野 Dave)