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そんなとこに金を使うより    (03.04)
オーストラリア物流大手買収をどう見るか(伝送便4月号より転載)

JP労組中央委員会議案の批判を旨とした原稿(今号3~5ページ掲載)を編集部に送ったのが2月17日。すると「このニュースはもう見ました?」。翌18日、多田野編集委員からの返信に『日本郵便が豪トールを約6200億円で買収、欧米アジアで事業拡大へ』というロイター発の記事が貼り付けられている。一読、すでに送った原稿に補筆する必要を感じた。それが本稿である。今号特集冒頭記事と併せて読んでいただけるとありがたい。

その2月18日発ロイター記事はこういうものである。
  「来年度後半の上場を目指す日本郵政が海外展開で大きな賭けに出た。同社は18日、豪物流大手・トール TOL.AX を6200億円で買収すると発表。国内中心の事業から、一気にグローバル物流会社への転身を図る。ただ、ゆうちょ銀行では、井沢吉幸社長が辞任するなど、運用資産の見直し作業の前途は多難をうかがわせる。日本郵政グループの打ち出した成長戦略が功を奏するか、内外投資家の関心を集めそうだ。」

買収するオーストラリアの物流会社トール・ホールディングスとはどんな会社か。18日付け朝日新聞夕刊は、こう解説している。
  「アジア太平洋地域を中心に50ヵ国以上で事業を営むオーストラリアの物流大手。2014年6月期の売上高は約8千億円。従業員は約4万人」

寝耳に水のニュース、というわけではない。というのは、今秋以降予定されている金融二社(ゆうちょ・かんぽ)の株式段階放出によって日本郵政は莫大な売却収入を手にすることになるからだ。この収入を日本郵政はまず政府から自社株を買うことに充てる(政府は政府で同じ時期、日本郵政の株を売りに出すわけだから)とのことだが、それだけではなく一部をM&A(企業の買収や合併)のための資金にもまわすだろうとはかねてから囁かれていた。
ただし、今はまだ上場前であり、売却益が出るとしても先のことである。

「日本郵政が社員の60%を占める期間雇用社員(非正規)の賃上げをかたくなに拒否している理由がわかった。M&Aのために内部留保を溜め込んでいたのだね」
  「経営が危機的といいながら、よくそんな金があるもの」
  「ペリカン便統合失敗の二の舞か」
  という疑問の声が上がるのは当然だ。西室泰三・日本郵政社長の記者会見での説明を一応紹介しておくと、
「買収資金は、日本郵便を立て直す原資として昨年9月にゆうちょ銀行から資本を移した1.3兆円の中から融通する」(朝日新聞2月19日朝刊) とのことだ。
  その金があるのなら、非正規雇用の待遇を改善せよ、削られたままの一時金を元に戻せ、と、やはり言っておきたい。

皮算用では

西室社長の会見を報じた朝日新聞朝刊には郵便・物流企業の売上高を比較した国際ランキングも載っていて、日本郵便は売り上げ1兆8500億円で現在世界8位。8400億円のトール・ホールディングスは21位。合併した暁には新会社は2兆6900億円で世界ランク5位に躍り出ることになる。
  ちなみにランキング1位はドイツポストで7兆7600億円、2位は米国郵便公社の7兆5800億円である。2位の米国が公社という名称なのは、あの国では郵便は民営化していないから。
  郵便は民営企業として採算がとれるものではないという判断はまっとうで、まともではないのは自国ではそうなのに日本には民営化することを執拗に要求していたこと。手前勝手も極まれりと言わざるを得ぬ。

それはさておき、かねてから言われているのは日本郵政には成長戦略がないということである。
  ゆうちょ・かんぽの金融二社はそれなりに手堅いといっても縮小傾向にあるし、日本郵便に至っては赤字企業だ。これでは金融二社も(日本郵便の株式を100%持ち続ける)日本郵政も株を売り出したところで良い値がつかない。それで金融二社はこれまで国債中心だった運用を改めて、当たるも八卦あたらぬも・・・のリスクの高い運用資金にも手を出す。
  日本郵便としては獲らぬ狸の世界5位が景気づけの打ち上げ花火である。ドイツポストの格好だけは真似ようというのであろうか。

ドイツポストの場合

世界ランキング1位のドイツポストは、それ故であろう民営化の成功例として引かれることが多い。しかし、かつての国営から民営化される過程で、1991年当時、約2万9千あった郵便局が2000年には約1万4千に減った。職員数は91年の39万人が99年は25万人である。さらに今年になって届いたニュースでは、ドイツポストは宅配事業の拡大に伴い2020年までに約1万人を新規雇用する予定であるけれども、新規採用者の賃金に会社の協定は適用しない。物流業界の労働協約を適用するため、これまでドイツの郵便労働者が闘い取ってきた水準より下回ってしまうことになる。
  「小包配達事業は、既存の賃金協定では競争に不利となり持ちこたえられない」
  ドイツポスト社幹部はそう説明する。同社の小包配達事業の人件費は競合各社の約2倍に上ると。どこかで聞いたような話で、私たちとして他人事には思えないニュースである。
  日本では非正規化を進めることで低賃金化を果たしたが、正規・非正規の格差が日本のように大きくはないヨーロッパではこういう手口で行こうというわけか。

ドイツポストの場合、よくも悪くも戦略性が窺われる。国有企業当時は民間の参入をゆるさず独占下で力を蓄え、民営化に踏み出すやユニバーサルサービス破壊などものともせず合理化を断行した。そして資金力をつけ国際郵便に乗り出し、国際宅配便会社DHLを買収したのである。
  いま日本郵便は、このDHL買収に倣いたいのだろうが、経営として考えてみたとしてもドイツポストのような戦略性があるだろうか。
  現在の改革民営化法はユニバーサルサービスを義務づけているのである。とにかく成長戦略を描いて見せろと迫られて、あとさき充分考えずに泥縄的に出してきたのが今回の買収話だとしたら、5年前の宅配便統合失敗の悪夢ふたたび、ということにならないか。
  そのドイツポストも近年赤字転落が報じられる。郵便事業は民営では無理なのだ。ドイツポストの後を追ってはならない。ユニバーサルサービスは維持されるべきだし、民営化が必然とする労働条件の低下を受け入れてはならない。

(土田宏樹)

追記情報(編集部)
  日本郵政の市場参入はサービス低下に、豪郵政公社が警告 (ロイター2月24日付)

オーストラリア郵便公社(オーストラリア・ポスト)のファアワー最高経営責任者(CEO)は24日、日本郵政グループが豪物流大手トール・ホールディングスを買収すれば利幅の厚い事業にしか参入せず、豪郵便公社は競争上、サービスの縮小を余儀なくされる恐れがあるとの見解を示した。

ファアワーCEOは議員の質問に対し、翌日配達サービスの切手代の引き上げが認められなければ、主要なサービスの縮小を検討せざるを得なくなると指摘。

利益率の高い分野だけに参入し、地方でのサービスを行う義務を課さない「いいとこどり」が日本郵政グループに認められれば、地方向けサービスから郵政公社も撤退し、担い手がいなくなる恐れがあると指摘した。

その上で「われわれが独力で(現在のサービスを)行えるのは今年が最後だ。改革を進めなければどこかから収入を得るか、あるいはサービスを縮小することになる」と述べた。

また、ファアワーCEOはトールが日本郵政グループの傘下に入れば「地域サービスに関心を持たない営利企業になる」と述べ、日本郵政の資金を背景に競争を活性化させようとするとの見方を示した。

郵便公社は前日、2015年の通期決算が赤字に転落するとの見通しを示している。